2011年1月27日

束摩焼(つかまやき)

湯呑みをひとつ買った。
本は例外として、持ち物はなるべく増やしたくないと思っているし、年齢とともにその傾向はますます強まっているのだけれど、それでも時々、ものを買ってしまう。

あるデパートにちょっと行ったら、最上階で市の催しをやっていた。スペースの一画には、地元の小学生がお城や有名建築物を描いた、写生会の入選作品がたくさん展示してあった。建物のある風景全体を四角の枠に捉えてきれいな色をつけてある絵がたくさんあって、入選だけあって上手だなあと感心した反面、そつがないなという印象のものも多かった。金賞を取った作品群には、他の入選作品にはない気迫や気品があって感心した。観察眼も色使いも、他のどれとも似ていない。金賞の中でも、城と空をいろいろな濃さの紫と青の点で描いた作品と、城のお堀を絵の具の色を全種類使って塗り分けたような作品がとくに印象的だった。絵を描く目的によって求められるものは異なるけれども、制約がほとんどないなかで絵を描く時には、写生した対象(実物)と形や色が同じかどうかということよりも、本人が自分の見る目と思考と感性によって「これだ」と感じるかたちをとらえ色をつければよいのではないかと、改めて思った(「つければよい」といっても、実際はその方がずっと難しい作業だ。本人の意図と技術なければただの偏屈か珍奇か出鱈目か滅茶苦茶になってしまう)。

子どもたちの絵を楽しんだ後、絵の展示の隣のスペースでやっていた物産展を少し見てたら、そこにいい焼き物があった。束摩焼というのだそうだ。この土地の空気をそのまま封じ込めたような焼き物である。墨絵のような色彩で、山々が彫ってある。私はこの土地の者ではないけれど、なんだか妙に惹かれた。手に取って一周させると、パノラマを見ているような高揚感があった。

その物産展では、その日の朝に炒ったというほうじ茶と、茗荷の味噌漬けを買った。家に帰ってきて、買ってきた焼き物でほうじ茶を飲んだ。少しほっとした。








写真は、束摩焼の湯呑み茶碗と、妹がアンティークショップで見つけて送ってくれたティーカップ。コースターはどちらも去年編んだもの。

2011年1月18日

戦艦ポチョムキン



1925年制作のロシア映画、『戦艦ポチョムキン』は無論、コメディ映画ではない。サイレント映画史上、最も重大なプロパガンダ・フィルムとして知られる作品である。しかし、この名作にしてこの珍名。「ポチョムキン」というなんとも可愛らしい名前と、重厚でかっこいい「戦艦」という響きのミスマッチ。プーチンがチェブラーシカのぬいぐるみを抱いているような違和感がある。たまらん。

なぜ戦艦ポチョムキンかといえば、昨日試験が終わったのである。
4月の末から約9ヶ月、夜更けのカエルの声に心を打たれ、庭の二十日大根を友だちのように感じ、燃えるような山々の紅葉に圧倒され、稲刈り機の騒音に悪態をつき、引っ越してからは何度も道に迷い、祖父母の家の白菊の可憐さに驚き、クリスマスソングは無視した。。。永かったなあ。

よく勉強に行っていたスターバックスで、試験の一日前に、バッハの二つのヴァイオリンのためのソナタの第二楽章が流れたとき、「勝った」と思った。そのメロディは本当に美しく、愛情に満ちていた。その直感通り、私はひとつ、大きな障壁を乗り越えた。これまでの人生で、私は、もともとのアホさに加えて、大変な緊張症のせいで試験や人前であたまが真っ白になり、かたまったまま時間を過ごしたということが何度もあり、そのために人生大損という面があった。でも、ひとつ前の日記に書いたような昨年の訓練の結果、今回の試験では、自分の蓄えてきた力を不足なく本番で出せたのであった。だから、不安の残るものはその通りの点が出たし、力のついたものはかなり良い点数が出た。出来はとても合理的で正直だった。なんというか、自分のしたことに納得がいくということは、こんなにも気持ちのいいものなのか。

というわけで、試験を終え、雪の降る中、本屋さんのあるスーパーに寄って、古本で小説を数冊、新書を数冊、そして戦艦ポチョムキンのDVDを買って帰ってきたのだった。ふとんでぬくぬくしながら本を読む幸せ。ポチョムキンを観たら、あとはチェロの練習がしたい。






*追記1
戦艦の本名は「ポチョムキン=タヴリーチェスキー公」という、エカテリーナ2世の愛人であったグリゴリー・アレクサンドロヴィチ・ポチョムキンに由来するそうだ。グリゴリー・アレクサンドロヴィチ・ポチョムキンは1773年に起こった「プガチョフの乱」で活躍した。プガチョフ。)


*追記2
あと、この映画にはショスタコーヴィチの交響曲第11番「1905」の第二楽章が使用されている点で、音楽史上においても極めて重要な作品であることを強調して付記しておかねばならない。





*プーチンのクマさんはこちら。いいセンス。
http://www.cafepress.co.uk/+vladimir_is_real_man_teddy_bear,300506462
http://www.cafepress.co.uk/+putin_teddy_bear,79461586


*写真は、ロシアで作られた「歴代大統領マトリョーシカ」である。10番目がプーチン。最初のは、ピヨートル大帝(1センチにも満たない大きさらしい)
http://www.rosianotomo.com/matryoshka/matryoshka3.htm